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2016年11月23日

【コラム】<TAG>通信[映像版]第5回「まちづくりとデザイン、地方都市と情報発信/ゲスト西村新氏」要約と所感 清水雅人

1時間超の映像を見る時間を割くのが難しい方のために、<TAG>通信[映像版]の要約をお送りするシリーズの第5弾、今回はデザイン、情報発信などをテーマに西村新氏に話を聞いた。
※すべてを要約できてはないので、よろしければどうぞ映像版をご覧ください。
<TAG>通信[映像版] → https://youtu.be/Z-Anu0P0yqQ

西村新氏経歴
 <TAG>通信[映像版]も今回で5回目となった。これまでの4回は、<TAG>が主に取り扱う、豊田の演劇、映像、音楽、アートを俯瞰的に話す試みをメインに据えたので、総論的な話も多かったが、今回からは、よりゲストの人となりをお聞きする、豊田で活躍している人、興味のある人にお話を聞くことに、より重点を置いていきたいと考えている。
 その最初は、デザイナーでこいけやクリエイト代表の西村新さんに来ていただいた。
 西村氏は、豊田市出身で、市内の高校卒業、県内の芸術大学を経て、デザインに関する仕事や関係ない仕事をしつつ、8~9年前よりネットフレンズ(「chaoo」などを発行する地元の広告代理店)にデザイナーとして勤務、2011年に独立し、こいけやクリエイトを設立された。
 独立には、東日本大震災もきっかけになったとのことで、2011年3月11日は仕事をしていたが、こういう時に、やはり家族のそばにいたい、それに仕事が遅くまでかかることも多いが、なるべく家族といる時間を多くしたいということで、自宅兼事務所にしたと語る。
 また、デザインを仕事としてやっていこうとした時に、東京や名古屋などに場を求めなかったのか聞くと、不思議とそういう気持ちは当時からなく、昔から地元が好きで、地元にいたいという気持ちが強かったとのこと。

 西村氏が学業を終えてデザインの仕事を地元でしていくのは、90年代中終盤頃だが、この頃より、フリーペーパーの出現や、インターネットの普及があり、地方ではそれまで新聞、広告、チラシくらいだった情報媒体がぐっと拡がり、デザインの需要が徐々に高まっていく頃だったと推測される。
 もう少し目を拡げれば、ケーブルテレビ局やコミュニティラジオなどの放送媒体も90年代より地域メディアとして出現してきており、媒体の種類は、全国を相手にする大手メディアと基本的には変わらなくなってきた時期でもある。
 改めて言えば、90年代から2000年代前半にかけて、情報発信のツールは、紙(新聞、雑誌、広告など)、放送、インターネットと、地方では、まずは環境として整ったという側面があると思われる。
 西村氏も、独立する時には、デザイナーでもある奥さんとともに、グラフィックデザインとWEBデザインでやっていけるかなと踏んでの独立だったとのことだった。

まちづくりとデザイン~本当の豊かさとは?~
 西村氏の手掛けるデザインや事業の特色として、農と食、自然など、統一的なテーマを感じる。それは独立時からのテーマだったのか聞くと、特に最初から狙っていたわけではないとのこと。独立のきっかけが、家族と一緒の時間を持ちたいということにも表れているが、「本当の豊かさとは何か?」という思いがあり、自分としては、ビジネスとしてより大きなお金を稼ぐということよりも、生活できる範囲で仕事をして、家族との時間を大切にしたいという生き方が、デザインや事業展開にも反映されているのではと語る。ただ、それらは最初に厳密に計画したわけではなく、今思えばそう思うとのことだった。

 西村氏は自然体で進んで来ただけだと語るが、このスタイルは、中山間地を持つ豊田が進むべき1つの方向性にとてもフィットしてきたと考えられるし、また、「本当の豊かさとは何か?」という問いは、普遍性を持った、時代の流れに寄り添ったものであると思う。
 従来デザインと言えば、ファッション、建築、出版物などのイメージだが、現在においては、まちづくりもデザインするという言い方がしっくりくるようになってきており、西村氏の活動には、デザインが進む先を感じさせるものがあるのではないか。

 西村氏は、デザインとは「よりよくするもの」だと語る。例えばチラシを作る場合、チラシを作ること自体が目的なのではなく、本来の目的を達成するためのツールとしてチラシがあるわけで、もっと言えば今では昔のようにチラシなどの紙媒体だけが情報発信のツールということはなく、インターネットやSNSなど様々なツールもあるので、目的を達成するためにそれらをどのように組み合わせていくかをコーディネートすることがデザインになってきていると語る。
 現在のデザインとは、地域の問題を発見し、抽出し、提示し、解決の方向を示すもの、という話も聞くが、西村氏が情報発信の最初のツールとして発刊し、4年が経つフリーペーパー「耕Life」などからでも感じられる、「豊かさとは何か?」「より豊かなくらしとは?」というテーマ設定と楽しさを追及する試みは、まさに現在のデザインのありかた、まちづくりとデザインを体現していると思う。
 豊田市として考えれば、中山間地域に関わる諸問題をどう解決していくかというのは大きなテーマであり、おいでんさんそんセンターはじめ様々な取り組みがなされているが、豊田のいなかを見える化する、魅力を伝えるということにおいて西村氏が担っている功績は大きいと考える。

地方都市と情報発信
 情報発信のコーディネートもデザインの内だと考えると西村氏は語った。地方都市における情報発信をどのようにするかというのは、実は<TAG>を立ち上げた目的の1つでもある。
 私たちは日ごろ多くの情報を主にテレビや新聞・雑誌などのマスコミ、それとインターネットから得ているが、そこには地域の情報はほとんどないに等しい。「これって実はおかしんじゃないか」と疑うことから始めるというのが<TAG>でもある。
 先ほど言ったように、紙や放送、インターネットなど地方都市にいても、情報発信のツールは揃っていて、受け取ることもできるわけだが、有機的に機能しているかと言えば、半分はイエスで半分はノーとなる。

 西村氏は、昨年より、とよたまちさとミライ塾の運営、情報発信も手掛けている。この事業は、市内のワークショップや講座を集約して情報発信する試みであり、注目度も高く、利用者も増えてきている。
 3年前の事業の初年度は、いち講座開催者としての参加だったが、2年目となる昨年度から豊田市観光協会より運営等請け負うことになった。
 ここでは、情報の集約やサイト・パンフレット等による発信だけでなく、それぞれのパートナー(講座開催者)に情報発信の仕方などをレクチャーする、横のつながりを促すために交流会をするなどの支援も行っている。そこには、まちさとミライ塾の全体のデザインの中で、必然的にやるべきことを必然的に手掛けていく、盛り上げていくという的確さ、筋道の正しさを感じる。

 また、西村氏は今年からとよたプロモ部という事業も立ち上げられた。これは、部員を募り、プロモーション(情報発信)に必要な各分野の専門家(写真、映像、文章など)を呼んで学び、スキルを上げていくという事業で、現在30人ほどの部員がいる。情報発信の重要性を感じ、耕Lifeやまちさとミライ塾を経て、プロモ部立ち上げに至ったとのこと。今年はプロモ部のメンバーに市民レポーターとしてまちさとミライ塾の講座の取材をしてもらったりもしているとのことだった。

 他に、西村氏は、とよたあそべるとよたプロジェクトのプロモーション、ロゴ作りやサイト作りにも携わっている。ここでは、全国のまちづくりに関係する様々な人たちと交流できたり、豊田を外から見る視点を得られることも大きいと語る。

最後に~情報発信に必要なもの~
 最後に、地方都市での情報発信を機能させるためには何が必要か聞いた。
 例えば耕Lifeは、現在1万5千部を配布している。ただ部数を出すということではなく、より質の高い読者、ちゃんと読んでくれる読者を少しずつ地道に増やしてこれたと思っている。
 また、インターネットでは、例えばあそべるとよたプロジェクトは、フェイスブックページのいいね!が1,300ほどあり、投稿によってはシェアされて1万くらい閲覧されている。
 SNSとひと括りで言っても、フェイスブックやツイッターなど種類によってもターゲットは違ってくるが、紙媒体でも、インタ―ネットでも、情報の届く先が1万を超えてくると、例えば企画募集にそれなりのリアクションが返ってくるなど、浸透している実感が出てくるとのこと。また、紙媒体ととインターネットの情報発信力を比べると、どちらが大きいということでもなく、同じくらいではないかとのことだった。コアな1,000(いいね!フォロワー)と情報が届いている10,000というのは、豊田市での情報発信の1つの目安なのかもしれない。

 そして、情報発信で必要なことは、コンテンツの質と継続性、さらに言えば、いろんな人を巻き込んでいくこと、繋がっていくこと、応援してくれる仲間を増やしていくことではないかと西村氏は語る。これは、「顔が見える」という地域コミュニティとしてのメリットを活かすというもっとも必然的な答えだと思う。

 筆者が若い頃、80年代に情報にこそ価値があるという言説が言われ始めた。それは今や自明のこととなり、情報のグローバル化は進み続けている。しかし、そんな中で、地域コミュニティでの情報発信のあり方を考えることは、もう一方でもっとも今日的なテーマにしなければならないと思う。地域社会をどう再生していくかという問題の中で、情報についての議論はまだこれからだと思うし、今回の1つのテーマだった「本当の豊かさ」の中には、情報の量ではなく質を考えることの必要性があると思う。

 西村氏にこれからの取り組みを聞くと、今年立ち上げたとよたプロモ部をさらに充実させていきたい、情報発信のプラットフォーム、ここにいけば情報が集約されているという場所(まずはネット上と考えている)を作っていきたいとのことだった。
 <TAG>とも重なる部分も大きく、今回の話は大変勉強になった。そして、引き続き連携も取っていかせらもうことを約束した。

ゲスト:西村新(にしむらしん) 
デザイナー、こいけやクリエイト代表取締役。豊田市出身・在住。印刷会社や広告代理店等でのデザインの仕事を経て、2011年独立、こいけやクリエイトを設立。以後、フリーペーパー「耕Life」発行、とよたまちさとミライ塾運営、とよたあそべるプロジェクトプロモーション、とよたプロモ部主宰など、デザインに限らないまちづくりに繋がる活動を続けている。
こいけやクリエイトサイトhttp://koikeya-create.com/
耕Lifeサイト http://www.kou-life.com/
とよたまちさとミライ塾サイト http://www.toyota-miraijuku.com/
とよたあそべるプロジェクトサイト http://asoberutoyota.com/
とよたプロモ部フェイスブックページ https://www.facebook.com/toyotapromobu/



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