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2018年09月07日

【コラム】とよた演劇祭「美術がうみだす舞台」観劇レポート 清水雅人

 2018年8月11日に豊田市民文化会館の大会議室で開催された、とよた演劇祭「美術がうみだす舞台」の観劇のレポートをしたい。
 とよた演劇祭サイトには、
「とよた演劇祭は、2011年より5年に渡り行われた『とよた短編演劇バトルT-1』の終了後、とよた演劇をより活性化すべく、
以下の3点を目的として始まった。
 ●豊田のお客様に演劇をより身近に感じてもらうこと
 ●空間を活かした作品づくりを低予算で行う力を養うこと
 ●豊田の演劇人に公演の機会を提供し、とよた演劇祭アカデミー修了生には最初の受け皿となること」
とある。開催は年に1回で今回が3回目。筆者は、第1回目は観劇、2回目は行けなかった。記憶が正しければ、第1回は「とよた短編演劇バトルT-1」を継承した形の複数劇団による短編演劇公演、2回目は公募脚本作品+αだったと思う。毎回新たな挑戦をしているという印象で、今回は、「美術がうみだす舞台」、舞台美術家杉山至氏の舞台美術がまずあり、その空間を起点に作り上げる演劇/パフォーマンス3作品という企画とのこと。<TAG>通信[映像版]でも話しているが、“現在の豊田の演劇の実力を測る試金石的な企画”との期待を持って会場に向かった。

 会場は豊田市民文化会館2階の大会議室。ここは元々国際会議にも対応できる会議室で、長方形の広い空間に楕円形の円卓がぐるっとあったようだが、その円卓はすでになく、代わりに杉山氏の美術が円卓のあった場所に施されている。
 その周りにイスが配置され、およそ100~150人の観客はこの会議室の三方壁側のイス(ここの会議室に元々あったちょっといいイス)に座る。中心の演劇空間を観客がぐるっと囲む感じだ。
 筆者は開演の10分ほど前に会場に入って席についたが、円卓を模した、しかし骨組みのようになった舞台美術を挟んで、向かい側にいる他の観客と対峙することとなる。この空間と、開演前のちょっとした緊張感が相まって、まるで1人で参加する、知っている人のいない会議に来てしまった時を思い出し、自分もこれから演劇に出演するような錯覚を覚える。多分イスについた他の観客も同じような気持ちを抱いているようで、その緊張感の渦のようなものが空間を包む。
 我々はまんまとしてやられたようだ、演劇が始まる前に、我々はすでに演劇の一部になっていたのだから。そして、開演した。

 1部は、新人枠として、とよた演劇アカデミー10期生(昨年度の修了生)を中心に結成された演劇グループteam10+(「チームてんぷら」と読むそうだ)による20分の短編作品「青地図」。鬼伝説をテーマに住処を追われた鬼たちが新天地を求めて航海に出る船上の設定だ。作者、演出がパンフレットやアフタートークでも語っていたが、美術に囲まれた馬蹄形の空間を船に見立ててストーリーを作っていったとのこと。美術に囲まれた閉鎖的な空間は、確かに船上の閉塞性と通じ、登場人物すべてが鬼という設定や、鬼伝説の悲しい歴史背景(一説には、鬼は渡来人に迫害されて居住地を追われていった縄文人との説もある)と重なって、非日常的な異世界が現前したようだった。しかし、徐々にその重厚な世界観をくすぐるコミカルな場面や言葉遊びが現出してくる。ともすると、そういう流れは世界感を壊したり、興ざめさせてしまう危険性を帯びているが、ここでは、重厚さとコミカルさが微妙なバランスで融合して、独特な雰囲気を作り出していた。演出の力量が試されるところであり、概ね成功していたと思う。
 強いて残念なところをあげれば、本作は第1話で話は続いていくという設定だったが、そういう設定でありつつも今回のストーリー上での着地点も欲しかったかなと思う。本作は第1話で続きは次回、というオチ自体が唯一の着地点になってしまっていて、ちょっと物足りなさを感じた。本筋のストーリーの展開~着地があり、そこに言葉遊びや連続ドラマ設定等のバリエーションが絡んで・・・とうのは欲張りすぎだろうか。

 2部は、招請枠として、名古屋を中心に活動するダンスカンパニーafterimage(アフターイマージュ)+公募ダンサーによるダンスパフォーマンス約30分「     」(タイトルなし)。冒頭、ダンサーが部屋の間取りの説明を始める。何もない空間を動きながら体を使って、“ここが玄関、玄関を入ると廊下があって・・・”と続く。1人2人とダンサーが増えていく。終わったダンサーははけまた新しいダンサーが間取りの説明を始める。それぞれの説明や動きは一瞬重なったりするが集約はされない。多分構成が計算されているわけではなく、即興的に奇跡的に一瞬だけ重なっているのだと思う。しかし、この多様性、ポリフォニックな声の重なりが段々と心地よくなってくる。それは同期しない。私は坂本龍一氏が昨年発表したアルバム「async」を連想した。acyncとは同期しないという意味。反復がロジカルな概念をそぎ落としていく。
 そして、チリンチリンと小さな鐘/鈴の音とともに、コンテンポラリーなダンスが始まる。ここでも各ダンサーは同期しない。しかし時折抱き上げたり放り上げたりなどの協力はある。そこにバックのかすかな音楽に交じって演説らしき音声が聞こえてくる。その声は段々大きくなる。どうも田中角栄の演説のようだ。その演説は、日本の成長を、明るい将来を未来を希望を語る。ものすごいエネルギーだ。しかし、我々はこの演説の50年後の日本、今の日本を知っている。発展は止まり、将来は暗く、なんでも揃っているが希望だけがない今を知っている。だが次第に、延々と続く演説と、延々と続くダンスが、私に小さな気づきを与える。希望を語ることがどんなに難しく、安易に希望を語れば安っぽくなってしまう今、しかし、ここで表現されているのは希望であると気づく。私は不覚にも続くダンスを見ながら落涙してしまった。こんな形で表現される希望を初めて観たし、自分も一人の表現者として、それでも希望をいかに描くかを考え続けている身として、感動したパフォーマンスだった。舞台/パフォーマンスを体験する中で、もっとも幸せであり、かつごまかしのないまっとな表現がそこにあったように思う。

 3部は、公募から選ばれた脚本を元に、豊田を中心に活躍する俳優/演出家の古場ペンチ氏が演出、出演者も公募で選ばれた約35分の短編作品「象牙の船に銀の櫂(かい)」。病院が舞台の作品で、3作品の中ではもっとも現実的でリアルな設定になっている。空間もそのまま(病院の)会議室としてイメージされているようで、ストーリーもテレビドラマ、サスペンスドラマ、病院ドラマ的な要素、病院経営や医療過誤、医師業界のヒエラルキー等々が詰め込まれている。そんな脚本のストーリーを演出の古場ペンチ氏は演劇的なフォーマットにいかに転換していくかに苦心したように思えた。演劇的な演出を随所にちりばめながらストーリーのベタ感を演劇的に昇華している印象だ。もしかしたら、1部の異世界観、2部の抽象性を横目に見つつ、この演劇祭の全体のバランスも考慮したかもしれない(考えすぎかもしれないが)と思った。
 ただし、開かれた演劇祭として、普段演劇に親しみのない観客にとっては一番わかりやすく、入りやすかった作品だったと思う。そういう意味で、演劇祭全体のバランスもとてもよかったと思う。

 以上的外れな部分もあると思うが、観劇の感想を率直に書いた。冒頭で言った“現在の豊田の演劇の実力を測る試金石的な企画”という期待は、内容、そしてこのような演劇祭が豊田で企画され開催されたということまで含めて、裏切らなかったと思う。
引き続き、挑戦的かつ刺激的かつ安心して観れる演劇を、豊田で継続的に実現していって欲しい、と期待するばがりである。

清水雅人
映像作家・プロデューサー。<TAG>発起人。映画製作団体M.I.F.元代表。映画製作の他にも、小坂本町一丁目映画祭運営、豊田ご当地アイドルStar☆Tプロデュ―スなどを手掛ける。


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