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2018年06月05日

【コラム】舞台照明と街路灯 本多勝幸

 <TAG>通信[映像版]でもお話した通り、豊田市駅前で都合三回、唐十郎の紅テント公演を行いました。その時できたご縁で横浜赤レンガ倉庫一号館ホールこけら落とし、花園神社、大阪中之島等々ご案内をいただく度に各地の紅テント公演に出かけては観劇を楽しみました。沢山の感動といろんな気づきがあり、後の挙母激励フェスティバル(石黒さんとやった挙母神社テント芝居)に続くのですが、商店街からみて何が一番参考になったかと言えば、それは「舞台照明」です。狭いテント、特別な仕掛けの無い小さく薄い舞台が、シンプルな照明の切り替えで昼が夜になり屋上が地下になり団欒の場が凄惨な事件現場と変わることに驚きと、これは使えそうだという感触を得ることができたのです。

 というのは、この頃ちょうど一番街商店街を含む竹生線の改修工事の話が纏まりつつあり、歩道に立つ街路灯の建て替え計画も同時に進んでいて、アイデアを求めていた時期と重なったからです。いくつもの街路灯会社がカタログを持って売り込みに来ていました。しかし、どこも「洋式がいいですか?和式がいいですか?」とトイレかと思うような紹介や、「うちの街路灯は明るいですよ」でも照らされる街の明るさは未計測、こんな感じのところばかりで、満足できる街路灯論を持った会社はひとつも無く困っていました。その私たちが紅テントから照明ひとつで景色がどれだけ変わるものかを学ぶことができました。目立つ街路灯ではなく、街を目立たせる街路灯を欲する気持ちになっています。街路灯会社にも舞台を照らすような灯りを求め、こちらからも具体的な設計について提案をするようになりました。幸運なことに一社だけですが提案を検討してくれる業者があり、それからはその会社と共にデザインを起こし、一番街商店街の夜景作りを行いました。

 その結果できあがった一番街オリジナル街路灯は色がピンクで高さ7メートル、一基あたりLED16灯というものでした。色は歩道のタイルと同系色で舞台照明である街路灯を街の中で目立たせないため、高さは歩道車道両方とお店の看板を同時に照らし且つ光源を歩行者の視野から外すため、LED16灯は街路灯の立つ場所に応じて一灯一灯の角度を調整するための仕様です。

 さて、立てられてから約10年、今でも商店街としては充分満足できる街路灯だと思っています。どうでしょう皆さん、ぜひ街を訪れてご覧になってください。紅テントの舞台照明が発端となった、いまだによそとはちょっと違う街路灯の光、照らされた街を楽しんでみてください。一番街は南は豊田信用金庫本店から北はコモ・スクエアまでです。街路灯の光なんて、普段は意識しないものだと思いますから、このコラムをお読みいただきそして街路灯と街を見て、さらに感想まで伺えたら最高です。

 <TAG>の収録が終わってから芸術とはなんだろ、文化とはなんだろ、ずっと考えていました。
 芸術は独りでも成り立つものかも知れませんが、文化には多くの共感する人たちが必要です。ハレ(特別な場所やもの)からケ(日常の生活)へ、人と人の間へ滲み出すものがなければ芸術は民衆の文化になれないと思います。

 私が関わっている豊田おいでんまつりにしても、踊ってる人と観に来た人たちだけが満足していてはだめで、テレビ・ラジオで見聞きするだけ、ひとづてに話を聞いただけの人でさえも、市民であればだれもが「豊田市にはおいでんまつりがある」と誇らしげに言えるようになって初めて豊田の文化だと、行政の言ういわゆるWe Love だと、文化として市民の共感を生んでいるんだと言い切れると思うのです。イベントとしての成功だけを追い求めている間はまだまだです。

 さて、長くなってしまいました。豊田市で開催されるイベントは、終わったらサラッと忘れて次のこと、って言うものが多いので、さしあたって来年開催されるラグビーW杯がこの街に余韻や残り香を残せるものであることを心より祈り、この原稿を終わりとさせていただきます。ご精読ありがとうございました。


本多勝幸(ほんだかつゆき)
ホンダ薬局店主、一番街商店街理事長。1960年生まれ。豊田に生まれ、小さいころから音楽・オーディオ機器にのめり込む。大学卒業後修行時代を経てホンダ薬局を父より継ぐ。JC(青年会議所)活動の後、一番街商店街理事長に就任、他にも豊田おいでんまつり踊り部会長など。また、唐十郎氏が主宰する「紅テント」の招へいや、挙母神社でのテント芝居「翔べ!ジョニー」(2009年 石黒秀和作演出)の主催・出演、「サードlab.」出演(2011年)など演劇等文化芸術人材との交流も深い。2018年5月<TAG>通信[映像版]ゲスト出演。  

Posted by <TAG>事務局 at 18:30Comments(0)コラム